01採用・選考は、部分ではなく全体を組み替える

候補者も採用担当者もAIを使う時代になった。候補者はAIを使って応募書類を整え、企業研究を行い、想定質問への回答を準備できる。採用する側も、書類の要約、候補者の比較、面接記録の整理などをAIに任せられる。

その結果、これまで選考で使われてきた情報の意味が変わっている。例えば、文章が読みやすいことや、志望動機がきれいに整理されていることは、本人の思考力や仕事の進め方をそのまま示すものではなくなった。書類の完成度だけでは、本人の実力とAIによる補助を区別しにくくなっている。

だからこそ、採用・選考は次の4つの視点から見直す必要がある。

何を評価するか

他社の採用基準や流行している人物像をそのまま持ち込むのではなく、自社で成果を上げている人の特徴に立ち返る。どのような仕事を任せるのか。その仕事では、どのような行動が成果につながるのか。自社に必要な人材像を、仕事の実態から定義する。

どう測るか

書類や受け答えの印象だけでなく、過去の行動や実務に近い課題から確認する。候補者が何を知っているかだけではなく、その知識を使って何をしたのかを見る設計へ変えていく。

どう検証するか

面接時の評価と、採用後の働き方を照らし合わせる。面接で高く評価された人が、入社後も実際に成果を出しているのか。反対に、選考時には評価されなかったものの、入社後に活躍した人はいないか。結果を振り返り、評価基準や質問を見直す。

AIをどこまで使うか

AIによる評価を、そのまま合否に使わないことが基本である。AIは記録の整理や確認の補助には使えるが、採用の責任を負うことはできない。利用目的、応募者への説明、データの取り扱い、バイアスの確認を含めて、最初から運用方法を決めておく必要がある。

評価軸、測り方、検証方法、AIの利用ルール。この4つをまとめて組み直すことが、AI時代の採用設計である。

02何を評価するか:自社で活躍する人の条件に戻る

採用基準を見直す際は、まず自社の仕事に立ち返る。一般的に優秀とされる人物像と、自社で成果を出せる人物像は、必ずしも一致しない。論理的に話せる人が活躍する会社もあれば、顧客との関係を粘り強く築ける人が活躍する会社もある。

重要なのは、自社では何を成果と呼ぶのか、その成果を出している人が普段どのように動いているのかを確認することである。

その中でも、AI時代により重要になるのが、考えを行動へ移す力である。AIを使えば、情報を集め、考えを整理し、もっともらしい計画を作ることは以前より簡単になった。しかし、計画を実行し、相手と調整し、うまくいかなければ修正し、最後まで進めるところまではAIだけでは完結しない。

採用で見るべき行動力とは、単に動きが早いことや、行動量が多いことではない。自分で一歩目を踏み出したか。必要な人を巻き込んだか。途中で問題が起きた際に、どのように考え直したか。結果が出るまで継続したか。こうした一連の行動を確認する。

筆者の見解

AIによって、考えをまとめるまでの差は小さくなっている。だからこそ、採用では「何を考えたか」だけでなく、「その考えをもとに何をしたか」まで確認する必要がある。見るべきなのは、行動の量だけではない。自分で始め、周囲と調整し、途中で修正しながら結果につなげたかどうかである。

03どう測るか:書類よりも行動の事実を見る

評価する内容が決まったら、次はその測り方を設計する。AIによって応募書類の完成度が上がった現在、書類だけで候補者の実力を判断することは難しくなっている。

志望動機、自己PR、職務経歴の要約、ポートフォリオの説明文などは、AIを使えば短時間で整えられる。文章が分かりやすいことと、本人が仕事を遂行できることの間には、以前ほど強い関係がない。

書類選考が不要になるわけではない。経歴や経験、応募条件を確認する資料としては引き続き必要である。ただし、書類の表現力を評価しすぎないことが重要になる。

書類への依存を下げる方法として、主に次の3つが考えられる。

過去の行動を具体的に確認する面接

面接では、本人の考え方を聞くだけでなく、実際に起きた出来事を確認する。「困難を乗り越えた経験はあるか」と聞くだけでは、抽象的な回答になりやすい。

どのような状況だったのか。本人は何を問題だと考えたのか。最初に何をしたのか。誰に働きかけたのか。途中で何がうまくいかなかったのか。最終的に何が変わったのか。こうした順序で事実を確認する。

本人が実際に経験したことであれば、判断の背景や途中経過まで具体的に話せる。一方で、表面的に整えただけの回答は、具体的な質問を重ねると説明が曖昧になる。

短時間の実務課題を行う

実際の仕事に近い課題を、無理のない範囲で実施する。例えば、営業職であれば顧客への提案方針を考えてもらう。人事職であれば採用課題の整理や面接設計を行ってもらう。企画職であれば限られた情報から施策案を作ってもらうといった方法である。

完成度だけを見るのではなく、どの情報を確認したか、何を優先したか、分からない点をどのように扱ったかを確認する。AIの利用を禁止する必要はない。実際の仕事でAIを使うのであれば、選考でも使用を認めたうえで、使い方と最終的な判断を見た方が実態に合っている。

短期の業務体験やトライアルを行う

職種や契約形態によっては、短期の業務体験やトライアルも有効である。ただし、無償で実務を行わせることや、選考と業務委託の境界が曖昧になる運用は避けなければならない。実施する場合は、課題の範囲、所要時間、成果物の利用方法、報酬の有無をあらかじめ明確にする。

いずれの方法でも、確認したいのは「うまく説明できるか」ではなく、「仕事に近い状況でどのように動くか」である。AIを使って知識を補うことはできる。しかし、その知識を理解し、現場の状況に合わせて使い、他者と調整しながら進められるかは別の問題である。

「できる」という言葉だけでは判断せず、過去に何をしたのか、どこまで本人が担ったのか、どのような結果になったのかを確認する。

04AIを使った面接評価の一例

AIは、面接官の代わりに合否を決めるためではなく、評価のばらつきや見落としを減らすために使う方が適している。筆者自身が試した経験を踏まえると、例えば次のような設計が考えられる。

1.評価基準を、確認できる行動に分解する

面接評価がばらつく大きな理由の一つは、「優秀そう」「熱意がある」「地頭がよい」といった曖昧な言葉で評価していることにある。こうした言葉は面接官によって意味が異なるため、同じ候補者でも評価が分かれる。

そこで、評価項目を面接中に確認できる具体的な行動へ分解する。例えば、「自分の経験に基づいて説明しているか」「判断の理由を複数の段階で説明できるか」「自分の役割と他者の役割を区別して話しているか」「失敗した際の修正行動を説明できるか」といった項目である。

評価を観察可能な事実に置き換えることで、面接官同士の認識をそろえやすくなる。面接記録をAIで整理する際にも、何を抽出するのかが明確になる。

2.行動実績は、量よりも最低限の有無を確認する

行動経験は、多ければ多いほど高く評価するものではない。人によって与えられた機会は異なる。経験数だけで点数をつけると、環境に恵まれた人ほど有利になる。

確認したいのは、少なくとも自分で始めた経験や、一定期間継続した経験があるかどうかである。単発の参加経験だけなのか、自分で役割を持ち、問題が起きても継続したのか。行動の数よりも、本人がどの程度関与し、どこまで責任を持ったのかを確認する。

3.話し方そのものを得点にしない

AIを使えば、語彙、発話量、話す速度、回答の順番などを抽出できる。しかし、これらは主に「どのように話したか」を示す情報である。「仕事で何を行ったか」「どのような成果を出したか」を直接示すものではない。

話し方を評価点に含めると、話すことが得意な人や、特定の話し方に慣れている人を過大評価する可能性がある。そのため、発話量や回答の長さなどは合否の点数には使わず、面接の進め方やデータの偏りを確認する材料として扱う。

4.AIと面接官の評価が異なる部分だけを見直す

面接官は、通常どおり候補者を評価する。同時に、AIが面接記録から評価項目に関する発言を整理する。両者の結果が一致している部分をすべて見直す必要はない。AIと面接官の評価が大きく異なった項目だけを、別の担当者が確認する。

例えば、面接官は主体性を高く評価している一方で、面接記録には本人が自分で始めた行動がほとんど出ていない場合、その評価の根拠を見直す。AIに判断を任せるのではなく、評価の根拠が薄い部分や、印象に引っ張られている可能性のある部分を見つけるために使う。

5.面接評価と入社後の結果を照合する

面接で分かるのは、入社後に活躍する可能性である。実際に活躍したかどうかは、入社後の仕事を見なければ分からない。面接時の評価と、入社後の成果や行動を定期的に照合する。

面接で高く評価した項目が、本当に入社後の成果と関係していたのか。反対に、評価していなかった行動が、実際には成果につながっていなかったか。結果を確認し、評価項目や質問内容を修正する。この検証を行わなければ、面接官の感覚や過去の慣習が、そのまま採用基準として残り続ける。

また、面接官と候補者の発話割合も確認材料になる。面接官が長く話しすぎて候補者の発話が少ない場合、候補者を評価するための情報が十分に取れていない。その場合は、面接スコアの確信度を下げる、または追加確認を行うといった対応が必要になる。

05採用でAIを使う際の倫理と注意点

採用でAIを利用する場合、技術的にできるかどうかだけで判断してはいけない。応募者の人生や職業選択に関わるため、利用目的、データ管理、判断方法を事前に決めておく必要がある。

録音やAI分析について同意を得る

面接を録音し、AIで文字起こしや分析を行う場合は、応募者に事前に説明し、同意を得る。録音することだけではなく、何のために使うのか、誰が確認するのか、いつまで保存するのか、選考終了後に削除するのかまで伝えることが望ましい。単に「AIを使用する場合がある」と記載するだけでは、応募者に十分伝わらない。利用目的と利用範囲を具体的に示す必要がある。

特定の話し方が不利になっていないか確認する

音声認識や文章分析の精度は、話し方によって差が出る場合がある。訛り、話す速度、声量、沈黙の長さ、言い直しの多さなどによって、文字起こしや分析結果が不正確になる可能性がある。また、寡黙な人や慎重に話す人を、消極的と誤って評価することも考えられる。AIの指標が、特定の属性や話し方を持つ応募者に対して継続的に不利な結果を出していないか、定期的に確認する必要がある。

目的外にデータを使わない

選考のために取得した面接データを、本人の同意なく他の目的に使わないことも重要である。例えば、採用面接の録音を、社内研修用の教材やAIモデルの学習データとして使うことは、当初の利用目的を超える可能性がある。選考、育成、研究、サービス改善など、目的が異なる場合はデータを分けて管理し、必要に応じて改めて同意を得る。

能力と関係のない好みを評価しない

特定の地域、文化、趣味、商品、企業などへの好き嫌いは、原則として仕事の能力とは関係がない。AIで会話内容を広く分析できるからといって、職務との関係が説明できない情報まで評価対象に含めるべきではない。評価項目は、担当する仕事で必要な能力や行動に限定する。

最終的な判断は人が行う

AIの分析結果を、そのまま採用または不採用の判断に使ってはいけない。AIは面接記録の整理や、確認漏れの発見を補助できる。しかし、候補者の事情を理解し、複数の情報を踏まえて判断し、その結果に責任を持つのは人である。「AIが不採用と判定したため」という説明では、企業としての責任を果たしたことにはならない。給与、評価、採用など、人の処遇に関わる判断では、AIは提案や確認の補助にとどめ、最終決定は必ず人が行う。

具体的な運用ルールについては、人事AIガバナンス|中小企業の最小ルールと進め方で詳しく扱っている。

FAQよくある質問

Q1.AI時代の採用・選考は、どのように変えるべきか?

書類や面接質問の一部を変えるだけでなく、選考全体を見直す必要がある。具体的には、何を評価するのか、どのように測るのか、採用後の結果からどう検証するのか、AIをどの範囲で使うのかを設計する。評価基準は一般的な優秀さではなく、自社の仕事で成果につながる行動から定める。

Q2.AIが普及すると、書類選考は不要になるのか?

書類選考が不要になるわけではない。経歴、保有資格、経験年数、応募条件などを確認するためには、引き続き必要である。ただし、文章の分かりやすさや志望動機の完成度を、本人の実力として評価しすぎないことが重要である。書類で確認できない部分は、面接や実務課題を通じて確認する。

Q3.候補者がAIを使う前提では、何を評価すべきか?

自社の仕事で必要となる行動を評価する。知識や考えを持っているだけでなく、実際に行動へ移したか、周囲と調整したか、問題が起きた際に修正したか、最後まで継続したかを確認する。AIの利用能力だけではなく、AIを使いながら本人がどのような判断をしたのかを見ることが重要である。

Q4.AIで整えた回答や応募書類を見抜くには、どうすればよいか?

AIを使ったかどうかを見抜くこと自体を目的にする必要はない。重要なのは、書かれている内容を本人が理解し、実際の行動として説明できるかどうかである。面接では、過去に何をしたのか、なぜその判断をしたのか、本人がどの部分を担当したのか、途中で何が起きたのかを具体的に確認する。表面的に整えただけの回答は、経緯や判断の背景を聞くと説明が曖昧になる。

Q5.採用側がAIで書類を選別する場合、何に注意すべきか?

AIの評価結果を、そのまま合否に使わないことが基本である。過去の採用データや評価結果に偏りがあれば、AIもその偏りを引き継ぐ可能性がある。AIがどの情報をもとに候補者を評価したのかを確認できる状態にし、最終判断は人が行う。また、一定期間ごとに、特定の属性や経歴を持つ候補者が不当に除外されていないかを確認する。

Q6.AIを使って面接評価を行うことはできるか?

可能である。ただし、AIに合否を決めさせる使い方は適切ではない。評価項目を具体的な行動へ分解し、面接記録から該当する発言や事実を整理する用途には使える。面接官の評価とAIによる整理結果が異なる部分を再確認することで、印象による評価や確認漏れを減らせる。語彙や発話量などの話し方は、原則として得点化せず、面接の進め方やデータの偏りを確認する材料として扱う。

06まとめ

SUMMARY

AIの普及によって、応募書類の完成度だけでは候補者の実力を判断しにくくなった。
採用・選考は、評価軸、測り方、採用後の検証、AIの利用ルールという4つの視点から見直す。
評価基準は、一般的な優秀さではなく、自社で成果を出す人の行動から定める。
AIは、面接官の判断を置き換えるものではなく、評価のばらつきや見落としを減らす補助として使う。

書類や受け答えの印象だけでなく、本人が実際に何を決め、どう動き、問題が起きた際にどのように修正したのかを確認する。

AIによって採用の方法は変わるが、候補者を見る際の基本まで変わるわけではない。仕事で何をしてきたのか。どのような役割を担ったのか。うまくいかないときに、どう動いたのか。整った文章や説明のうまさではなく、行動の事実から判断することが、これまで以上に重要になる。

中小企業は、一般的な人材像を追いかけるより、自社で実際に活躍している人の行動を採用基準に落とし込む方が、精度の高い選考をつくれる。

この記事は、AI前提の人事再設計|5つのテーマの一部である。

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坂田 亮

ABOUT THE AUTHOR

坂田 亮

株式会社Workspace 代表取締役

メーカー、広告代理店、IT企業(メガベンチャー・スタートアップ)の事業会社人事を経て、人事コンサルティング企業を設立。15年以上の人事実務経験を持ち、人事制度設計・採用戦略・労務対応・人材開発を幅広く支援。事業会社人事として多数のコンサルティングを受ける側の体験を持ち、「現場で機能する制度」の設計にこだわる。